従来の幾何学では,「点集合」を要素とした幾何学的な理論・手法の開発をしてきたといえる。そこに空間的な概念を据え,関数・ベクトル場・微分形式といった対象物を定義することで,多様体論の基礎概念が支えられ,物理学での相対性理論の飛躍にも大きく貢献していった。物理学ではその後,ある意味で「点」を基礎としない量子論に考え方を大きく変えている。数学についても,これに呼応する”新たな考え方”が期待されるなかで,その候補として研究が行なわれているのが,本書で扱われる,代数構造の変形から生まれる「変形量子化」による「非可換の幾何学」である。
本書では,まず「Pursell-Shanks型定理」などにより,古典的空間概念から非可換空間への移行を図る。次に,「シンプレクティック多様体」とその変形量子化について解説する。最後に,空間概念の量子化の鍵となりうる「ポアソン代数」とその変形量子化について解説する。
さまざまな場の理論を画一的に理解できるようにすることや,非可換場の理論の構築にも期待がされる大きな理論について,丁寧に解説する。
Author(s): 前田 吉昭, 佐古 彰史
Series: 共立講座 数学の輝き 13
Publisher: 共立出版
Year: 2020
Language: Japanese
Pages: 282
はじめに
目次
第1章 数学的準備と非可換幾何の出発点
1.1 はじめに
1.2 代数的準備
1.3 幾何学的準備
1.4 Pursell-Shanks型定理
第2章 関数環の変形
2.1 一変数関数の関数環の変形
2.2 多変数関数の変形
2.3 関数環の変形についての同値性
2.4 2変数の関数環
第3章 代数構造の変形
3.1 代数の変形
3.2 ポアソン代数の変形量子化
3.3 ホッホシルトコホモロジー
3.4 ポアソン代数の定義
第4章 シンプレクティック幾何学
4.1 シンプレクティックベクトル空間
4.2 シンプレクティック多様体
4.3 ダルブーの定理
4.4 ハミルトンベクトル場
4.5 シンプレクティック多様体のポアソン括弧
4.6 シンプレクティック多様体のポアソン代数
第5章 シンプレクティック簡約空間
5.1 シンプレクティック多様体の群作用
5.2 モーメント写像
5.3 随伴軌道と余随伴軌道
5.4 簡約空間
第6章 シンプレクティック多様体の変形量子化
6.1 量子化問題
6.2 シンプレクティック多様体の変形量子化
6.3 変形量子化の同値性
6.4 変形量子化の同値類
第7章 変形量子化による非可換微分多様体の構成
7.1 ワイル多様体(非可換微分多様体)
7.2 ワイル代数束の接続
7.3 平坦曲率
7.4 ワイル代数束の水平断面
7.5 平坦接続の拡張
第8章 非可換微分多様体
8.1 非可換平坦空間
8.2 非可換球面
8.3 非可換ケーラー多様体
8.4 非可換一葉双曲面
第9章 ポアソン多様体
9.1 ポアソン多様体
9.2 コスツール括弧
9.3 スカウテン・ナイエンハウス括弧
9.4 リー双代数
9.5 ポアソン・リー群
9.6 ポアソン多様体のリー亜代数とリー亜群
第10章 ポアソン多様体の変形量子化
10.1 変形量子化とホッホシルトコホモロジー
10.2 ポアソン多様体の変形量子化の構成
参考文献
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索引