本書は,話題を楕円関数に特化し,それを歴史的な流れに沿って解説することで,数学の面白さに対する興味や関心が自然に繋がり高まっていくように試みたものである。楕円関数は,近年情報系分野の人たちにも注目されているが,何にもまして19世紀から20世紀の数学の方向を導いて来た話題である。クラインの言っていた三つの「A」,すなわち Arithmetic, Analysis, Algebra の統合・発展の契機となった話題であり,文化的な教養として取り上げるにふさわしい。また,本書の他に類を見ない特徴として「虚数乗法」の記述がある。楕円関数論にとって重大な役割を果たし,結局は100年をかけた類体論への道標となったものであり,アーベル,ヤコビ,クロネッカーらの系譜に流れているものを数学文化として顕在化しておくことは価値がある。本書は概観でしかないが,広大な数学世界へのひとつの足掛かりとしての役割を果たしてくれるだろう。
Author(s): 三宅 克哉
Publisher: 共立出版
Year: 2015
Language: Japanese
Pages: 136
序
目次
第1章 楕円積分とそのRiemann面
1.1 円の弧長とレムニスケートの弧長
1.2 楕円積分
1.3 複素関数としての指数関数
1.4 複素平面とRiemann球
1.5 複素関数としての√z, そのRiemann面と局所パラメータ
1.6 楕円積分のRiemann面
第2章 複素関数論から
2.1 複素平面上の基本的な図形
2.2 区分的に滑らかな曲線とJordanの曲線定理
2.3 複素微分
2.4 複素積分
2.5 Liouvilleの定理と代数学の基本定理
2.6 一致の定理
2.7 孤立特異点と有理型関数
2.8 留数定理
第3章 楕円関数と周期加群
3.1 楕円積分の積分関数と逆関数
3.2 周期加群とWeierstrassの℘関数
3.3 楕円関数のいくつかの性質
3.4 Weierstrassの関係式
3.5 複素輪環面と楕円曲線
3.6 Weierstrassの℘関数の加法公式
3.7 周期加群による楕円関数体の特徴付け
3.8 楕円関数体とそのモデュラス
3.9 楕円モデュラー関数
第4章 虚数乗法
4.1 複素輪環面の間の同型写像
4.2 Abelの意味での虚数乗法
4.3 輪環面の自己準同型環
4.4 虚数乗法と虚2次体の数論
第5章 超楕円積分とそのRiemann面
5.1 超楕円積分とそのRiemann面
5.2 超楕円曲線のJacobi多様体
5.3 Riemann-Rochの定理
参考文献
[20]
索引